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 ところが、実は私にとってこの価格は、一つの目安に過ぎないのである。
平均的には七〇円の収益しかもたらさないにもかかわらず、筆者が時折一枚一〇〇円の宝くじを買うのは、これは、ひょっとしたら手に入るかもしれない巨大な利益を考えて、これが自分にとって一〇〇円以上の価値があると判断した結果である。
 オプションの価値も、宝くじの場合と同様に、個人ごとに差があって当然である。
そこで、A銀行のコール・オプションが、一体どれだけの価値があるのか計算してみよう。
以下ではオプションの権利行使価格は一万八〇〇〇円、権利行使日は三ヵ月後であるものと仮定する。
 第一ステージは、ニカ月後の日経平均の値段をざっと予想してみることである。
現在一万八〇〇〇円の日経平均インデックスは、三ヵ月で最も下がって一万六五〇〇円、上がって一万九五〇〇円というのがこの時の予想だとしよう。
そこでこの上限・下限を、例えば、七つの区別に分割する。
そしてそれぞれの価格が実現する確率を割りふるのである。
この確率は、過去のデータから”客観的”に求めてもよいし、自分の信念をもとに、”主観的“に求めてやってもよい。
そしてこの確率のもとで、コール・オプションから得られる平均的収益を計算するのである。
その結果は、275となる。
したがって、この予想の下では、オプションの価値は二七五円である。
これがA銀行の提示するプレミアムより大きければ、買っても損ではないが、そうでなければ買わない方がよいという次第である。
この結果、コール・オプションの価格Gを求めるには、偏微分方程式を境界条件の下で解けばよいことが分かった。
 この方程式は、物理学でよく知られている熱伝導方程式である。
公式を導くためにはいくつもの方法が知られている。
詳しく説明するには、どれもかなりの準備とスペースが必要である。
 いま、わが国の会計制度が大きく変わろうとしている。
これまでの簿価(主義)会計が、間もなく時価(主義)会計に変更されるのである。
関係者は、これを「会計ビッグバン」と呼んでいる。
 簿価主義会計の下では、企業の資産は、取得原価から減価償却した分を差し引いて計算される。
しかし、昔々に取得した土地や株式の簿価は、時価と比べて大きな違いがある。
この場合の、時価と簿価の差が「含み益」である。
 含み益は長い間、わが国の企業の強さの源泉であるとされてきた。
表面上に出てこない含み益の存在によって、企業はリスクの多い案件に投資することも許されてきた。
ところが、ともするとこれは放漫経営に繋がる。
 また簿価会計の下では、企業のキャッシューフローの実態が良く掴めない。
このため、帳簿上は黒字なのに倒産する企業が出てくるし、損失隠しなどの経理操作の温床となり易いという欠点もある。
そこで金融ビッグバンの機会に、会計制度も欧米流の時価会計に変更して不透明さを一掃することになったのである。
 一方の時価主義会計の下では、本来すべての資産はそのときの価格、即ち時価によって評価される。
したがって、この制度が採用されれば前で述べたような問題はなくなる。
ところが、株式のように市場で価格が決まっているものならともかく、企業が保有する土地や設備の時価を計算するのは、決して容易なことではない。
 例えば、工場の時価を評価するには、まずこの工場が耐用期間を通じて生み出す利益を計測する必要があるが、これは将来の経済状況や、生産原材料の価格、マーケティング戦略などによって大きな影響を受ける。
工場が生み出す毎年の利益の大きさを推定するには、利益に影響を及ぼす変数を抽出して、それらの間の関係を調べてモデル化する、このモデルの当てはまりの良さを、過去のデータを用いて統計的に検証する、変数の将来値に関する確率分布を推定する、計算機シミュレーションを行い、毎年の平均的利益を計算する、ことなどが必要となる。
現在の経営工学手法を使えば、このような計算を行うことは可能である。
実際プロジェクトーファイナンスと呼ばれるプロジェクト単位の融資にあたっては、このような計算が行われている。
しかしそれには当然大変な手間と費用がかかる。
そこで今回の改正では、時価評価は市場で価格が決まる金融資産のみに適用されることになっている。
 それでは、金融商品の市場価格はどのように決まるのだろうか。
これは金融経済学及び金融工学上の最も重要な課題の一つである。
 まず最初に、将来何年かにわたって“確実に”一定の現金収入をもたらす金融商品、すなわち無危険資産の価格がどのように決まるかを説明しよう。
 無危険資産等の代表は、(倒産する心配のない)国が発行する国債である。
国債というのは、満期までの期間一定の割合でクーポン(利息)が支払われた後、満期になると元本(通常の場合一○○円)が償還される証券のことをいう。
例えば一〇年物二%利付き国債といえば、元本一〇〇円に対して一年あたり二円(通常は半年あたり一円ずつ)のクーポンが支払われ、一〇年後に一〇〇円か確実に払い戻される証券である。
 無危険債券の価格は、将来のキャッシューフロー現在価値に割り引いた公式を用いて計算することが出来る。
 割引率を決める一番手軽な方法は、将来の金利はざっと現在の水準と同じであるとするやり方である。
現在のように、金利がその下限値であるゼロに貼り付いている場合に、将来の金利も現在と同じレベルで推移すると想定するのは危険である。
しかし金利水準が五~六%の時代には、これは良く使われていた方法である。
 上の方法よりやや精密な方法は、市場に流通している国債の価格を用いる方法である。
市場では、満期までの期間やクーポンーレートの異なる様々な国債が流通している。
それらには、それぞれそこから得られるキャッシューフローを、ズロ理的な”割引率で割り引いた価格がついているはずである。
そこで、市場におけるこれらの国債の価格をもとに、金利水準を逆算するのである。
の現金が残ることになる。
 すなわち、この投資家は初期投資がゼロで、満期時点で“確実に”プラスの収入を得ることができることが分かる。
これは「裁定取引(さや取り)」の機会が存在することを意味している。
 しかし金融理論上は、このような裁定の機会は直ちに消滅する。
なぜなら情報が完全に行きわたる「効率的市場」においては、すべての投資家がこの事実を知るはずだから、誰もがこの債券を買おうとするであろう。
この結果、債券に対する需要が増加して、債券価格は理論価格戸に達するまで上昇する。
また、逆に市場価格が理論価格を上廻っている場合には、上の議論を逆転させることによって、債券価格が理論価格まで下降することが示される。
 やや長くなったが、結局債券の理論価格は、計算で求められることが分かった。
ここで、債券の価格を簡潔な形に書くことができ、ここに現れる定数を第1期に適用される「割引率」という。
 このようにして求められるのは、投資家たちが現時点で予想している将来の金利水準である。
したがって、これが確実に実現されるという保証はない。
実際、九〇年代に入ってからは、投資家たちは一貫して金利は上昇すると予想していたにもかかわらず、実際にはそれは低下し続けてきたのである。
しかし、何か起こるか分からない将来を、今の時点で確実に予測することは、もともと不可能な話である。

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